→船頭、多くして Back...*


「あいつの兄貴だろ?絶対怖ぇって!」
「軍人だって聞いたけど?」
「空軍所属だそうだ」
「よもや国粋主義者って事は…ないのかねぇ?」
「そんな人だたら大変よォ」
「うむ」

「会った途端に殴り飛ばされるかも知れねぇぞ」
「まさか、それはないよ」
「招待したのはフランソワーズの方だろう」
「いやはや、恋人の家族に紹介されるというのは緊張するネェ」
「でも目上の人にはちゃんと挨拶、するのコトよ?」
「誠意をもって接すれば、伝わる」

「だって同じ遺伝子だぜ?怒りっぽいに決まってる」
「それは、相手が君だからだよ」
「お前が怒らせるからだ」
「うら若き女性の扱いを、心得てない者が悪いのだからして」
「怒るのは、あんさんにだけネ」
「自業自得だ」

「何で一斉に突っ込むんだよ」
「とにかく、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、きっと」
「存外、気が合うかもしれないしな」
「かくして、賽の目は投げられたのであった…ああ少年の運命や如何に」
「そうョ、一緒にご飯食べればすぐ仲良くなれるョ」
「あまり気にしない方がいい」

ギルモア邸のリビング。
あまりの賑やかさにイワンが目を覚ますと、明日出発するジョーを囲んで
ジェット、ピュンマ、ハインリヒ、グレート、大人、ジェロニモそれぞれが
てんでに好きな事を吹き込んでいた。ジョーは困り果てている。
ギルモア博士はイワンの側に座って、にこにことその様子を眺めていた。
「…僕、こういうの初めてだから…」

アア、ふらんそわーずノオ兄サンニ会ウンダッタネ。
昔、チョット彼女ノ記憶ヲ覗イタ時ニ、見エタ事ガアッタケド。

…ドウデモイイカ。

小さなあくびを一つして、イワンはまたうとうとし始めた。
一つ分かったのは、フランソワーズが日本に帰ってくるのは
まだ当分先になりそうだということ。
ジョーの不安より、そちらの方がイワンにとっては重要だった。

ヤッパリ、ふらんそわーずガ一番上手ニ僕ノ世話ヲシテクレルカラネ。

ソンナ彼女ヲ育テタ人ナンダカラ、悪イ人ジャナイト思ウンダケド。
…ミンナダッテ、分カッテテじょーヲカラカッテルノカ。

「あいつ、重症のブラコンだぜ?ケンカしたら兄貴の味方につくぞ、きっと」
「そう言えばハインリヒ、会った事あるんだっけ?」
「昔な、パリで…ちらっと見た事はあるが。グレートも一緒だったな」
「我輩はあの時確信したね。彼女の男の趣味は、幼少時の刷り込みによるものだと」
「何ね、ジョーと哥哥、似てるのかね」
「そうか」

ソウダネ、とイワンは心の中で相槌を打つ。
少シ、じょーニ似テルカモ。髪型トカ…髪型、トカ。

フランソワーズと初めて会った頃。
黒い幽霊団に連れてこられたばかりの彼女は、テスト中によく泣き叫んで
兄の名前をしきりと呼んでいた。
他に呼びたい名前とか、頼りたい奴はいないのかよ…とジェットが零す程。
その頃の彼女には、心の中だけでも縋る相手は兄しかいなかったのだが。

ソウ言エバ、ダンダンアノ人ノ名前ヲ呼バナクナッタネ。

フランソワーズ本人が強くなったのも、その理由の一つ。
でも、もっと大きな理由がもう一つ。

「…僕が行って、邪魔しちゃ悪いような気がするんだ」
「そうかぁ?むしろこの場合、兄貴の方が邪魔だろ?」
「折角、久しぶりに家族で過ごしてるのに」
「そんなことないよ、フランソワーズが君を呼んでるんだもの」
「だから、お兄さんにとっては邪魔じゃないかなあって」
「…まあ、向こうもお前に会ってみたいんじゃないか?」
「フランソワーズを連れてっちゃったの、僕だし」
「世界の平和を護る為には、多少の犠牲はつきものなのだよ。少年」
「こんな風に誰かの家族と会うのも、初めてだし…」
「緊張してるネ〜不要緊、リラックスよ」
「変な事言って、嫌われたりしたらどうしようかと」
「普段通りでいればいい」

撃沈寸前、という雰囲気のジョーの声に反比例して、
彼を励ます声はどれも楽しそうだ。

誰モ本気デじょーヲ心配ナンカシテナインダネ。
勿論、僕モダケド。
じょーナラキット、誰ニダッテ気ニ入ラレルカラネ。

一人溜息をつくジョーをよそに、周囲は一層盛り上がる。

…デモ、ソロソロ解放シテヤリナヨ。

イワンが大声で鳴き出した。
ジョーが時計を振り返り、慌ててミルクを作りにキッチンへ飛んで行く。
今日ハ、じょーガ当番ダッタッケ。


//end.





決してガチンコを引っ張ってる訳じゃないのですが…日本サイドその2。
ジョーの出発編、野郎メンバー総出演。イワンは一番大人だなあ。
ものすごく今更なジョーの渡仏は、「 妹さんをください!」
って訳ではないんだけど…色々時間経ちすぎて、それに近い雰囲気が。

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